作・絵 杉谷禎子
朗 読 杉谷禎子
作・絵 杉谷禎子
朗 読 杉谷禎子
1
ここは、 秋田県男鹿半島。 これは、 ぼくがくらしている村の お話です。
今日は12月31日、 おおみそかの夜。
遠い昔から 大切に受けつがれてきた なまはげ行事の日です。
ぼくは、 お父に なまはげの話をいっぱい聞いて 育ちました。
なまはげは 年神様であること、
悪いことを 教えさとしてくれること、
不幸をもたらすものを はらいのけてくれること、
そして、 ぼくたちに幸せをあたえて 帰っていくこと。
でも 本当は、 おそろしい顔であばれまわるなまはげが こわくてたまりません。
ほんのり雪明かりの外に おそるおそる出てみます。
雪にすっぽりつつまれた家々。
その小さくなった窓から やさしいあかりが もれています。
寒空をつんざき、 ウォー ウォーと おたけびが とどろき始めました。
なまはげが、 たいまつをかた手に 山から下りて来たのです。
ぼくは、 飛んで家に入ります。
ふるえがとまらず、 どきどきそわそわ もう落ち着きません。
うちにも もうすぐやってくる…。
2
先立と言って、 なまはげをせんどうする人が やって来ました。
「おばんです。 なまはげ 来たんすども。」
「おめでとうございます。」
「寒んびどご 良ぐ 来てけだんすな!」
「んだす。 山がら来るに 容易でねがったす。」
3
ウオー
身の毛がよだつような声に ぼくは 縮みあがります。
なまはげが、 たちふるまいをしています。
ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ、
七回、 四股をふんでいるのです。
ぼくたちが 病気にならないように、
けがをしないように、
しあわせになれるように、
四股をふんでくれるのです。
ありがたいけど… 。 やっぱりこわい。
「泣ぐ子 いねが。」
「親のめんどうみ悪い嫁 いねが。」
「なまけもの いねが。」
「言うごど聞がね子どら いねが。」
なまはげは、 家中をさがし回ります。
ぼくと弟たちは、 泣きさけびながら逃げまどい、 お父のもとへ走っていきます。
お父のうでやせなかに ひっしで すがりつきます。
4
「なまはげさん、 まんず すわって 酒っこ飲んでくだんしぇ。」
お父は、 家の主らしく 落ち着いたものです。
荒れ狂ったように暴れていたなまはげが うそのように静かになりました。
そして、 お膳にすわる前に
ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ、 ドシ
今度は五回、 四股をふみます。
障子のすき間から、 息をのんで のぞき見します。
「おめでとうございます。」
「おめでとうございます。」
「なんと深え雪の中 容易でねがったすべ。
今年も来てけで いがったすなあ。」
ぼくの家でとれたものを なまはげに ふるまいます。
なまはげ膳には、 尾頭つきの魚 タコなどのさしみ 煮しめ 紅白なます ごぼうのでんぶ 黒豆 ハタハタのすし などが ならびます。
ハタハタのすしは、 ぼくのばあちゃんの じまんの一品です。
なまはげは お酒を飲むだけで、 お膳の料理には手をつけないのが 習わしです。
お酒は一献、 さらに一献、 そして、 三度目のさかずきは 口をつけるだけで、 そのまま お膳においていきます。
このさかずきは、 お神酒となるのです。
なまはげが帰ったあとに、 ぼくたち家族は みんなで飲み回します。
5
「おやじ、 今年の作は 何とだった?」
「はい、 おがげさまで、 たいした いい作であったす。」
「んだが。 まだ いい作なるいに おがんでいぐがらな。」
「子どら、 まじめに勉強してだが?」
「おらいの子どら、 まじめで 親の言うごどちゃんと聞いで いい子だす。」
「どらどら、 ほんとだが?
なまはげの帳面 見でみるが。 何々…。
毎日、 テレビだのゲームばしやって 勉強さねし、 じぇんじぇん手伝わねって 書いであるど。」
「おやじ、 子どら言うごど聞がねば、 手っこ三つただげ。
へば、 いづでも 山がらおりで来るがらな。」
「どら、 もうひとげり 探してみるが。」
なまはげは、 お膳をはなれる前に、
ドシ、ドシ、ドシ
三回、 四股をふみます。
「なまはげさん、 まんず この餅っこで ごめんしてくだんしぇ。」
「子どらの躾 がりっとして、 家の者みんな まめでれよ。
来年 まだ来るがらな。」
6
なまはげが 帰ったあと、 ぼくと弟たちは 大はしゃぎ。
なまはげが あばれて落としていったわらを ひろい集めるのです。
「いっぴゃー とったど。」
「おらの方が にいちゃんより よげだど。」
「このわらっこ まぐらの下さ 入れるべな。
きっと来年も えーごどいっぴゃだな。」
なまはげの落としたわらには 神様が宿る、 とされているのです。
ぼくたちは、 お守りとして まくらの下に入れます。
ばあちゃんは、 ひざがいたむと言って 足にまいています。
ぼくには、 夢があります。
大人になったら、 なまはげになることです。
一番おそろしいお面を つけてね。
神の使い手になって 村の人たちに 幸せを運びます。
7
年神様なまはげ
作・絵 杉谷禎子
朗読 杉谷禎子
参考 真山なまはげ伝承会
製作 所沢マルチメディアデイジー